「低空経済」という言葉をご存知でしょうか?
"「いっこうに景気が回復しないよ~」という状態が続いている"
という意味ではないんです(^^;)
この言葉はドローン大国・中国で生まれた言葉で、
"高度1000メートル以下(条件によっては3000メートル以下)の空域を利用した産業(人や物の輸送、農業や各種撮影での活用など)"
のことをいいます。まさにドローンの活躍によるところが大きい分野で、最近何かと話題のeVTOL(イーブイトール)・俗にいう「空とぶクルマ」もこの低空経済の発展のカギを握っているのは言うまでもありません。
実は2024年は、「低空経済元年」とも言われています。中国の習近平総書記が2023年12月の中央経済工作会議(中国で最も重要な経済政策会議みたいなものです)にて低空経済を取り上げたことにより、低空経済に関連する法整備が一気に進んだのです。
技術的には中国は既にあるレベルまで到達していましたし、物流・運送以外でのジャンルは活用は十分進んでいました。が、物流・運送に関しては運用実現に当たっての法整備が最後の課題になっていました。しかし今回の法整備で
「どのような条件を機体・運用体制・空域・保険等が満たしていれば実施を許可するか」
「事故発生時の責務の詳細を制定」
となったので、早速 深セン(あのDJIの本社があるところです)ではドローン配送用の離着陸スポットなどのインフラ整備が進み、ドローン配送が日常的になりつつあるとのこと。例えば豊翼科技という会社の開始したドローン配送サービスでは、もうすでに1日平均1万件以上実施しており、料金は現在 期間限定特別価格ではありますが12元、日本円にして約260円!!
また、人を乗せた「空中タクシー」(5人乗り)も試験的に開始しており、車で2~3時間かかるところを20分で到着できたという結果も出ています。
深センだけでなく上海でも、特定の公園にて出前ドローンの配送サービスが本格的に開始されています。ドローンにより運ばれてきた商品は配送スポット(ポート)内に移され、購入者はポートの画面にて携帯番号の下4桁を入力することで商品を受け取れる仕組みです。もちろん配送ポートはそれなりの高さ・大きさがあるため、どのタイミングでドローンが離発着しても人に危害が加わることはありません。
ということで、中国は「低空経済」の名のもとにグングンこのジャンルでのリードを広げています。
一方で日本の「低空経済」の状況はというと・・・
・農業での活用
かなり導入が進んできたと思います。ドローン界隈にしては珍しく国産メーカーがとても頑張っているジャンルでもあります。ただ、従事者(農家)の超高齢化問題(70代以上の方々が使いこなすには厳しい)や、作物によって向き不向き等があるなど、まだまだ課題はあります。
・撮影関係での活用
こちらもかなり進んでいます。今やバラエティーやドラマといったテレビ番組や映画などの1シーンでドローン空撮した映像が使われることは日常的です。また現場写真の撮影や報告資料等で使用する写真や動画の撮影でも相当活用が進んでいます。ですがそのほとんどはDJI製品によるもので、それ以外の有名メーカーも大概海外製です。国産ではSonyのAirpeakくらいしかめぼしい機体が無いのが現状です。
・測量、各種点検、調査等での活用
ここ5年くらいで相当導入が進んだと思います。また、撮影系ほどではないにしろ、やはり海外製が超主流。色々事情があって国産機を使用している方々も増えていますが、その方々も心の中ではDJIを使いたがっているのが悲しい現状です。性能差がハッキリしているにもかかわらず国産機の方がはるかに高額であることも切ないです・・・
・配送(物流)、運輸での活用
色々な意味で中国とのレベル差がえげつないです。
配送に関しては、まず安全性やセキュリティに大きな課題があり、その解決には機体の性能向上だけでなく安全性の高いポートの登場が待たれます。日本のドローン配送実証試験の映像を検索して見てもらえばわかりますが、多くが地面に直接着陸しています。当然実験ですから人が近付かないようにしているわけですが、実際にはドローンを見かけた人が珍しがって近付いてくるかもしれません。どのタイミングで離着陸しても安全、とは全く言えない状況です。また、着陸後の荷物や機体自体が置き引きのようにサッと盗まれる可能性もあります。また、報道していないだけかもしれませんが、この手の配送実験は届けて完了している感があり、配送後のドローンが帰っていくところを見たことがありません(見てないだけで実際は帰れているのかもしれませんが)。
運輸(空とぶクルマ)に関しては、トヨタをはじめとした数社が頑張っているのは拝見しています。特にトヨタはつい先日、アメリカのベンチャー企業Joby Aviationとの共同開発eVTOLでやっと日本初の試験飛行を実施するところまで漕ぎつけました。ですが中国はもう運用開始待ったなしのところまで来ています。また、トヨタの空とぶクルマは約2億円なのに対し、中国のEHang社E216は約4,500万円と相当な価格差に・・・
・法制度
今の日本の航空法等は本当に厳しく、正直あまりドローンとか普及させたくないのかな?と思ってしまうくらい、なんでもやりにくいのが現状です。自分らで掲げた「空の産業革命」を阻止したいのかなと、国内の機体メーカーの開発意欲も萎えるのではと思うほどです。あと、「無人航空機」という言葉で大きくあれこれ括ってしまったせいで、ドローン的にはさして問題無いようなことが違法となったりしている部分も残念です。これでは「低空経済」の発展は牛歩となるでしょう。
色々と好き勝手書いてしまいましたが、間違いなく言えるのは このままでは中国にはどうあがいたって追いつけやしないだろうというくらい、日本の低空経済を取り巻く状況は残念な感じだということです。たしかに中国は慎重さに欠ける部分もあるかなとは思いますが、それ故に突っ走って先頭を爆進してるのも事実。一方の日本は石橋を叩きすぎて破壊して進めなくなってるくらい、慎重さが顕著に足引っ張てるのかなとも思います(特に法制度)。
日本のドローン業界にいるものとして、この状況が少しでも改善されるよう、良い操縦者を育成しつつ、これからの日本の低空経済に期待をしていきたいと思います。